「アダムとイヴの失楽園」物語り

  エデンの園は、アダムとイヴにとって夢見る楽園でした。そこでは、二人は裸で過していましたが、少しも恥ずかしいとは思っていませんでした。アダムとイヴが、エデンの園でどれほどの時間を費やしたかは定かではありません。しかし、ある日、蛇に代表されるサタン(悪魔)がイヴを誘惑するという大事件が発生しました。

ここから、ドラマは最大の山場に差しかかります。蛇の誘惑、神の審判、そしてパラダイス・ロスト(失楽園)へと、一連のエピソードが続くことになります。夢見る楽園は、たちまち視界から消え、アダムとイヴは、神の怒りに触れ、エデンの東に追われるように転落していきます。そこは、どれほど耕してもアザミとイバラしか生えない不毛の荒野でした。

人類の始祖されるアダムとイヴの転落の物語りは、「神が創られた野の生き物の中で、蛇が最も狡猾だった」という前口上と共に、静かに幕が開きます。アダムとイヴの運命は、蛇の出現によって突然、狂い始める訳ですが、夢見る二人は、まだこのことに気がついてはいません。

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エデンの園には、赤や黄色や紫といった色とりどりの花が咲き乱れ、泉のほとりは、小鳥のさえずりで賑わっています。この楽園の風景をかき乱すものは、何一つありませんでした。アダムとイヴが、楽しそうに語らいながら、泉のかたわらを通り過ぎて行きます。

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事件は、その後に起きました。狡猾な蛇がイヴを誘惑したのです。神があれほど強く念をおされた戒めを破るよう、蛇が誘惑してきました。神は、アダムとイヴに、楽園にあるどの木の実も食べて良しとしていました。しかし、知恵の木の実だけは、絶対に食べてはいけないと堅く禁じていました。

しかし、地上で一番、狡猾な蛇が、イヴに神の命令にそむいて、禁じていた知恵の実を食べるよう勧めたのです。イヴはそれをついに手を伸ばし食べてしまいました。そして、アダムにも食べるよう勧めました。これが、人間が最初に犯した罪なので、「原罪」といわれます。

蛇は狡猾にも、神からの直接の命令を受けていない「助け手」である女(イヴ)を騙したのです。女の方が男よりも騙され易かったのでしょうか。では、女を騙す手口を見ていきましょう。

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イヴの耳元で、蛇がそっと囁きました。
「神は、本当に取って食べるなと言われたのですか?」

イヴが応えました。
「いいえ、私たちは、園にある木ならどれでも食べていいのです。けれども、神は"園の中央にある「木の実」だけは絶対に食べてはいけないし、それに触れてもいけないと言われました。もし、それを食べてたなら、すぐに死ぬと言われたのです。」

さらに蛇は言いました。
「いいえ、それを食べても、あなた方は決して死ぬようなことはありません。なぜなら、それを食べると、あなたの目が開け、あなた方は神のように、善悪を知るものとなります。」 「神は、そのことを怖れておられるのです。」 「なぜならば、神は、自分が神である立場を維持していたいがために、他の者たちが自分と同じ知恵を持ってもらいたくないのです。」「それで、神は園にあるのものたち全員に戒めを与えたのです。」 と、言葉巧みにイヴに伝えたのです。

こう蛇に言われたイヴは、心底納得してしまい、恐る恐るその木に近寄って、禁断の木の実を見ました。
イヴには、それまでは神の戒めを破る気など、微塵もありませんでした。が、しかし、それは見るからに美しくて美味しそうに見えたのです。

それから先は、蛇の思惑どおりでした。
なるほど、これを食べれば、私は以前よりも更に賢くなれる。そう思ったイヴは、ついに木の実に手を伸ばして一口食べてみました。結構、美味しい。そして、すぐにアダムにもその実を手渡しました。
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アダムが、その木の実を口にした瞬間、火よりも熱い羞恥の矢が、裸の二人を射ち抜いたのです。アダムとイヴが神の言葉に従わず、罪を犯した瞬間でした。真昼の太陽が、アダムとイヴを燦燦と照らしていました。二人は自分たちが裸であることに気づきました。

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そして、二人はイチジクの葉で自分たちの恥部を隠すため腰に巻きつけたのです。その後二人は、神の顔を避けるように、茂みの中に身を隠します。蛇は神の言葉を改ざんし、神が人を束縛するかのような印象をイヴに与えたのです。

蛇はイヴに、「それを食べるとあなたの目が開け、あなた方は神のようになり、善悪を知るようになるのを神は知っているのだよ!」と言って、更に食べるようにそそのかしました。イヴは、蛇のこの罠にうまくはめられたのです。

夕暮れが近づき、一日の終わりを告げる涼しい風が、エデンの園を吹き抜けていきました。アダムとイヴは、神がエデンの園を歩き回っているのを見かけたので、二人は茂みにひそんで、吹く風の中に、近づく神の足音を息を殺して聞いていました。

アダムは、神の呼ぶ声を耳にしました。「アダムよ、どこにいるのか!」 
傾いた夕陽が、二人の姿を、影絵のように映し出していました。二人は、言葉もなく、神の前に出ていきひざまずきます。そのとき、神の顔をふりあおぐ勇気をアダムは持っていませんでした。

神は、アダムとイヴになぜ隠れたのかと尋ねました。
彼らは、本当は、食べてはいけない「知恵の木の実」を食べてしまったので隠れましたと、正直に言わなければならなかったのですが、そうは言わず、自分たちが裸なので恐れて隠れました。と、すり替えて答えたのです。

神は、アダムに詰問しました。
「アダムよ、お前が裸であることを誰がお前に教えたのか、どうして、食べるなと命じておいた木からとって食べたのか。」

青ざめたアダムの顔があいまいさに歪みます。
「あなたが、わたしと一緒にしてくださったあの女が、木からとってくれたのです。」と、責任をイヴに転嫁し、彼女を強く非難しました。

神はイブに言いました。
「女よ、なんということをしたのか。」

イヴはこたえました。
「蛇が私をだましたのです。」と、今度は蛇を非難しました。

アダムもイヴもずいぶん利己的で、ずるいのですが、最終的に一番悪いのは蛇であることが判りました。

神は蛇を叱りつけました。
「お前は、このことのために、野の全ての獣(けもの)の内、最も呪われるものとなるだろう。お前は腹で這い歩き、一生、塵(ちり)を食べるだろう。」

次に、神はイヴに言いました。
「私は、お前のために、女の産みの苦しみを与え、その苦しみが大いに増すだろう。それでもなお夫を慕い、夫は女を支配するだろう。」

それからアダムにも言いました。
「お前は、女の言葉に従って、私が禁じた木から取って食べた。大地はそのため呪われ、お前は一生、苦しんで地から食物をとるだろう。大地は、お前のために、イバラとアザミとを生じ、お前は野の草を食べるだろう。お前は顔に汗してパンを食べ、ついに土に帰ることだろう。そう、人は塵から生まれたのだから、最後は寿命が尽きて塵に帰る運命をたどるだろう。」

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アダムは、神が語る一部始終をただうなだれて聴いていました。イヴも同じです。その抜け殻のような二人の目に、夕暮れが運命の幕をひくように、濃い夜の暗闇に変わるのが映りました。二人は無一物のまま、エデンの園を去ったのです。

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さて、ここでこの物語りに登場する「誘惑の蛇」について、もう少し考えていきましょう。

  前述の通り、蛇はイヴに「決して死ぬことはないでしょう」と言い切ってイヴに迫りました。神の意図を知っていてか、イヴを言葉巧みに誘惑するこの蛇は、ただの野に這う蛇ではありません。蛇で象徴された存在は、野を這う動物ではなく、また動物に近い素朴な生き物でもありません。

普通ならば、イヴがそのような蛇のごときものに簡単に誘惑されるはずがありません。神の霊を受けた者を誘惑できるのは、霊的な存在でしかありません。天にあって霊的な存在が、地に投げ落とされたものとは、天使以外に考えられません。女を誘惑する蛇とは、「黙示録」(12:9)に記された「悪魔とか、サタンと呼ばれ、全世界を惑わす老練な蛇」に違いないのです。

知・情・意を司る、三大天使長がいなければなりません。「黙示録」に、ガブリエル(情)とミカエル(意)の名はあるのですが、知の天使長の名がありません。しかし、それを示唆する聖句が、「イザヤ書」(13:12)にあります。
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そう明けの子よ、明けの明星よ、あなたは天から落ちてしまった。明けの明星とは、知の天使長ルシフェル(ルシファー)のことです。光の天使が、天から落ちて闇の天使になったのです。
ルシファーは現在、地獄の帝王です。知は明暗で表します。知は真理を探究する精神性を表します。しかし、知は同時に、善悪どちらにも傾く性質を持っています。
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悪に走れば悪知恵となり、例えば科学の探求心が恐ろしい殺人兵器を生みだし、遂には人間を大量殺戮するほどの悲惨な結果をもたらすように。知の天使長ルシフェルが、何らかの動機から神に反逆して、イヴを誘惑する者となったのです。

では、どうして知の天使長を、蛇で象徴したのでしょうか。イエスは、弟子たちを伝道に送るとき、「蛇のように賢く、鳩のように素直であれ」(マタイ10:16)と送り出しています。ユダヤでは蛇は知恵の象徴であり、また淫乱と多産の象徴でもあったのです。

賢いとされる蛇には、舌が二枚あることから、二枚舌を象徴していています。二枚舌とは、思っていることと、言うことが違う、裏腹で大変ずる賢く計算高い人間のことです。そのような人間は、最初から自己中心的特徴を持ちます。

更に、蛇の生態的な特徴の中に、獲物を体に巻きつけて食べます。これは、知の天使長であるルシフェルは、神に反逆して公けの立場を捨て、自分中心(自分が有利な立場になるよう)に全て考え、自分に引き寄せます。確かにルシフェルは、誘惑者となって蛇のように女に忍び寄り、しっかりと女に巻きついたのです。

この時期、イヴは未完成の少女のようでした。それは蛇の誘惑に誘われるまま、木の実は見るからに美味しく映ったのでしょう。イヴは、ただ神の戒めを守ることが、人として完成する条件でしたが、しかし、守るか守らないかは、彼女の自由意思に任されていたのです。
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by sigma8jp | 2008-12-10 02:52 | 「アダムとイヴの楽園物語」 | Comments(0)
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