ユングは最終的には実存主義者ではなく実在論者の立場を取ったと考えていますが、実存主義を理解していたことは確かであると思います。ユング心理学の言うところの「自己」とは、極論すると「神」または「全宇宙」と言い換えても良いものです。
ユング学派の言う「個性化」が進むとフロイト学派の言うところの自己同一性は高まって行くのですが、その結果心理的変容の1つの最終過程である「自己」との一体感を感じる瞬間が起きます。これをユング心理学ではエナンティオドロミーと呼びますが、この際に経験者には自我肥大(エゴ・インフレーション)という物が起きているとされます。 この自我肥大という言葉は、言葉だけでも良い印象は無いと思いますが言ってしまえば、「自分と宇宙が一つになったような全能感」が起きます。私の経験からですが、頭の片隅ではこれは一種の錯覚に過ぎないと気付いているのですが、確かに自分がまるで「神」になったかのような気持ちになり、一種傲慢になりました。 そして非常に分かりにくいと思いますが、同時にそれは「死」に非常に近接した状態、生と死の交わる1点に自分が立っている感覚であり非常に危険です。別のある心理学者(セラピスト)の言葉を借りると「自分が100%死ぬと分かっていた」という表現も可能です。(彼の場合は私と比較し幾らかポジティヴな状態であったようですが。) この異常な精神状態が、おそらくニーチェの言うところの「永遠回帰(永劫回帰)」になるのであろうと考えています。心理的変容が未経験の哲学・文学系の方々は、この永遠回帰を文章・文脈的に理解しようとする傾向があるようですが、この永遠回帰思想はそれだけでは断片的理解に過ぎず、彼のツァラトゥストラには、むしろこの「死を伴った全能感」をニーチェが克服しようとした時に表された言葉が出ているだけと考えています。 ニーチェの「ツァラトゥストラ」含め彼の作品は皆、一種の高揚感がありまた傲慢とも言える全能感に満ちていることがありますが、この原因には彼の梅毒罹患による脳の器質的破壊があったかもしれませんが、ユング派の言葉を借りれば個性化過程における自我肥大による影響もあったのではないかと思います。 ニーチェの文体は非常に力強いのですが同時に一見、混乱・破綻したような文章になっています。これは自我肥大を伴う個性化課程を経験した者のみは「ああ、そうだよね。同じことを経験しているんだ。」と読み解けるようある程度意図的に設計されていると思います。
by sigma8jp
| 2008-12-22 16:31
| ユングの「個性化とマンダラ」
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Comments(6)
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hito
at 2014-02-14 17:43
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初めてコメントさせていただきます。ユング関連の情報が豊富なこちらのページに時々お邪魔して記事を拝見していました。
私はこれまで、ユングのマンダラに関する部分については、最も興味がないというか、ユングが完全に神秘の方に行っちゃった時にでてきた不思議理論だと思っていました。 それが、実は先日、自分自身のカウンセリングの中でその状況に出会い、驚きや嬉しさと共に困惑しているところです。 自我の肥大、という感覚がすごくよく分かります。まるで自分が特別に選ばれた人間になったような・・・。 どのように、その時期を越えたのか、お聞かせいただけないでしょうか。 今は、ユングの原典に当たって色々と調べておりますが、まだこれといった出口が見つからずにおります。
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sigma8jp at 2014-02-15 02:13
本ブログを見て頂き、有り難うございます。
さて、ユング心理学に興味を持ち、研究されているということですが、ご自身でもカウンセリングを受け、何か新たに感じるものがあったということですね。 それらの実感として、下記の文面に表れています・・・・! ”それが、実は先日、自分自身のカウンセリングの中でその状況に出会い、驚きや嬉しさと共に困惑しているところです。 自我の肥大、という感覚がすごくよく分かります。まるで自分が特別に選ばれた人間になったような・・ どのような体験をご自身で感じたか、できれば詳しくお聞かせ願えればと思います。” ユングは自己の肥大化として、それらの体験を片付けていますが、自身でも等身大の自分を超え、限りなく宇宙的な自己に近づけていくと最終的に「神」と一体化した自己が現れたりします。その時、日頃味わったことのない、「自分と宇宙が一つになったような全能感」に満たされます。 その領域に、直ぐに到達する人もいますが、人によっては何年も何十年も掛かる人もいます。
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慶太
at 2014-02-16 12:42
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はじめまして。こんにちは、つい最近こちらを見つけました。凄く感激しています。ありがとうございます(*゚▽゚*)
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hito
at 2014-02-21 01:05
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ご返信をいただきありがとうございます。
私の方がコメントが遅くなり申し訳ありません。ここ数日、改めてユングの著作にあたっていました。「自我と無意識」を読むと、前半に自我の肥大について書いてありますが、やはりユングはこの時点ではそのことをポジティブなこととは捉えていないようですね。この本の後半にある、マナ人格というのも自我の肥大に関連するのでしょうね。 私自身は、まだsigma8jpが仰るような自分と宇宙が一つになったような全能感をしっかりと感じ取れてはいませんが、(時々、瞬間的に感じることはあります)これから体験するプロセスの中で、そのような体験ができれば嬉しいです。 なぜなら、「自我と無意識」での自我の肥大への否定的な側面を強調した書き方があまりにもユングらしくないと思うからです。ただ、危険な面もあるというリスクを知りつつ、自分の成熟ということについて前向きに取り組んでいきたいと思います。 ご意見をお聞かせいただき、ありがとうございました。
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hito
at 2014-02-21 01:06
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sigma8jpさん、上のコメントで敬称が抜けてしまいました。大変失礼いたしました。
はじめまして。
ブログ記事を回遊させていただき、覚醒や悟りと呼ばれるような現象を同じように経験された方がいることに驚きました。 ユングや賢者の石、ニーチェ等を読みながら、自分に何が起きているのかについてを考え続けています。 このように記録を残しておいてくださったこと、感謝いたしますm(*_ _)m
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【 記事の更新情報 】
本ブログは、管理人が、神秘学の世界観をインデックスとして、まとめてみたいという趣旨で掲載したものです。 本編の宇宙のプログラムに触れる前に、まず全体の骨子を理解するため、過去の偉人が残した様々な哲学や神秘思想を学びます。宇宙のプログラムを効率よく理解するためには最適なテキストとなるからです。その意味から、本ブログで紹介している多くのカテゴリは、本編の宇宙のプログラムを実践するに当たっての材料であり、そのための紹介文となっております。 又、ここに掲載されている内容は、主に(ネット・本・辞書)から引用し、編集したものです。 最新のコメント
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