【 叡智の開示者 】
人間の救済は、こうして「心魂」の救済の意味となります。或いは、霊に伴われた心魂の救済ともなるでしょう。しかし、グノーシス主義における霊魂の「救済の条件」は何かと云う問題に再び戻れば、それは本質的には、霊及び心魂の「浄化」と云うことになるでしょう。 プレーローマと本質を同じくするはずの「霊」に「浄化」が必要になるのは、霊が、ただに霊だけではなく、「霊+心魂+肉」の構造となっているためでしょう。肉から切り離されても、霊には、地上世界の暗黒の影響を払拭するための「浄化」が必要になるのであり、ましてや、「中間世界」に属する不安定な位置の心魂においては、「浄化」は必須とも云えるでしょう。 そして「心魂」の浄化は、その本来性の故郷、即ち、プレーローマの「知識(グノーシス)」の自覚と、霊との神的再結合によって可能となると、或る派では主張します。この場合、心魂を「花嫁」とし、霊を「花婿」として、霊と心魂の「聖婚」によって、心魂の浄化が行われると、神話的比喩で語られます。 (「心魂 Psykhee」は、ギリシア語の女性名詞であり、他方「霊 Pneuma」は、中性名詞です)。こうして、心魂は女性的人格要素であり、霊は中性的・男性的人格要素であり、両者の神秘なる「結合=聖婚」によって、丁度、プレーローマの高次アイオーンたちがそうであるように、人間の霊魂の「両性具有」化が実現され、それを通じて、心魂の浄化が起こり、これによって、霊と心魂は聖化され、プレーローマへと帰還する準備が完了するのだともされています。 かくして、「霊魂の浄化」には何が必要であるのか、と云うことがグノーシス主義の救済論の根本条件になるでしょう。そしてそれは、上述の通り、「秘密の知識=グノーシス」であると云うのが、まさにグノーシス主義の答えであり、また、これが、グノーシス主義が、「グノーシス (叡智・認識・知識,Γνωσις)」の名で呼ばれる所以でしょう。 しかし、人間は、「秘密の知識=叡智」について、「無知(アグノイア Agnoia)」な状態にあるのであり、その理由は、光明の世界の真実が、「光の破片=霊」を存在の裡に秘める人間たちに知られのを怖れた、或いは嫉妬した、造物主=デーミウルゴスが、この知識を人間から隠蔽した為であるとも、或いは、人間の霊が地上に落下した時、その「本来的故郷」についての記憶や知識を、人間自身が忘却してしまった為であるともされます。 これらの「知識=グノーシス」は玄妙な叡智であり、それを正しく認識し覚知できる者は、優れた人間においても稀であり、それ故、至高世界プレーローマにあって、アイオーン・ソピアーの救済を計画している高次アイオーンたち、或いは榮光の「知られざる神=ビュトス」が、「真実の知識=叡智」の開示者を、「救済者 Sooteer」として、人間の存在する地上に派遣し、それによって、グノーシスの教師たち・その信徒たちに、「叡智」を開示し、救済への道を示したと云うのが、グノーシス主義の「グノーシス=叡智」の覚知・自覚・認識による救済論の構造です。 「グノーシス(叡智)」とは究極的に何であるのか、一つは、反宇宙的二元論構造の世界のありようの真実や、またプレーローマ永遠界の存在や、人間の裡なる「光の霊」の存在、デーミウルゴスやアルコーンたちの「悪の策略」の暴露などが「知識」として含まれるのでしょう。しかし、果たして、それだけであるのかと云う疑問もあります。 「知られざる神・認識を越えた榮光のプロパテール」についての「知識」が謎であるように、「真実開示者=救済者」の伝える「知識」そのものに、何かの「資格」を持つ者でなければ分からない「真実の智慧」が秘められている可能性が大いにあると云うべきでしょう。 救済を可能とする「グノーシス=知識・叡智」の開示者は、同時に「救済者」でもあり、それはヘレニク・グノーシス主義、特にキリスト教的グノーシス主義では、イエズス・キリストがそれであるとされます。 しかし、ヘレニク・グノーシス主義の起源問題において、救済者は、最初、女性的原理或いは霊であったとする見解があります。ソピアーは、救済されるべき「人間の運命」の象徴原型でもあり、「救済される者」ですが、実は、ソピアー自身が、人類の救済者であるとも解釈できます(「救済する者」が、実は同時に「救済される者」であると云う逆説的事態が、グノーシス主義にあっては、救済論における原理として前提されています)。 また、救済者は、一般に、プレーローマより派遣される高次アイオーンの超霊と考えるべきでしょう。しかし、無論、マニ教では、まさにマニ自身が「真実開示者」で、また、彼に先行する覚者である仏陀、ゾロアスター、イエズスなどの「人間」が救済者であるとされています。 しかし、マニにしても、「パラクレートス(取りなしの聖霊)」の啓示を受けて、「真実」を覚知し、真実の伝道を始めたのです。このことは、人間イエズスの場合にも同様で、イエズスは、ヨルダン川で、バプティスマのヨハネより洗礼を受けた時、天から訪れる、鳩の形の聖霊(ハギオス・パラクレートス)の言葉を聞き、自分が救済者であることを自覚したのです。
by sigma8jp
| 2008-11-14 22:25
| 古代叡智(グノーシス主義)
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