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大作曲家とその音楽がもつ影響 2

ブラームス[1833-1897]
  代表作 4つの交響曲、序曲、2曲のピアノ協奏曲、バイオリン協奏曲など。
ブラームスの作曲したピアノ・ソナタを聴いたクララ・シューマンは、「神が既製品としてこの世に送られたかのようだ」と語った。彼の音楽は、ベートーベンと似たような内容を持つ。すなわち、あらゆる人間の感情がそこに描かれているのだ。

しかしブラームスの場合、それらは克己的な自制心によって統制されており、均整と堅実さによって貫かれている。しかし冷たくはなく、あたたかいハートを秘め、穏やかな品位が滲み出ている。彼の音楽により、克己心、自制心、忍耐などが刺激され、やさしい感情を育成させることができる。


サン=サーンス[1835-1921]
  代表作 交響曲第3番「オルガン付き」、組曲「動物の謝肉祭」、ピアノ協奏曲その他。
 彼は音楽のみならず、いろいろな分野で才能を発揮した人物であり、神秘学の研究も行っていたらしい。超人的な記憶力の持ち主で、早くから音楽の頭角を表した。
彼の代表作「オルガン付き」は、なかなか大胆な展開であり、オルガンの音色や、しだいにもりあがる曲の展開から、生命力を湧き上がらせる効果が非常に強いと考えられる。また「動物の謝肉祭」のようなかわいい作品は、豊かな感性を養う効能があるようだ。


ムソルグスキー[1839-1881]
  代表作 組曲「展覧会の絵」、交響詩「禿げ山の一夜」オペラ「ボリス・ゴドゥノフ」、歌曲など。
ロシア国民楽派の1人であった彼は、「展覧会の絵」で知られるように、多彩な音楽が書ける作曲家であるといえるが、彼の本質は無骨さと、ある種の反抗精神にあるようだ。その点でオペラこそがムソルグスキーの本領であるといえよう。
「展覧会の絵」に限っていえば、いろいろなタイプの曲が混入されているため、その効果もさまざまである。ただし全曲を通して聴いたときには、その展開が音楽療法的にもマッチしており、何かしらの気分転換が図られるかもしれない。気分転換や何かにくぎりをつけたいときに聴くといいだろう。


チャイコフスキー[1840-1893]
  代表作 7曲の交響曲、バレエ組曲、3曲のピアノ協奏曲、バイオリン協奏曲、序曲など。
彼の音楽の傾向は2つに分けられる。ひとつは、すばらしくチャーミングで夢想的な音楽、たとえば「くるみ割り人形」などのバレエ音楽だ。もうひとつは、交響曲におけるやや病的なまでの激情と感傷性である。前者は単純に楽しめる音楽である。後者の場合、カタルシス効果の強い音楽であり、それゆえに良い面も悪い面も持っている。悲しい気持ちや抑圧された思いを発散させる効果がある反面、過度に耽溺すると、病的な感傷性や自己憐憫が芽生える可能性があり注意が必要かもしれない。

特に注目したいのは、彼の音楽の持つ爆発性である。たとえば第4交響曲終楽章における爆発的に始まる冒頭、第6番1楽章の中間あたりで、静かなクラリネットの後に急に爆発する打楽器と金管、そして序曲「1812年」での大砲の音などだ。ロシアの情報公開により、隠されていたチャイコフスキーの素顔が少しずつ明らかにされてきたが、彼はときどきかんしゃくを起こして椅子を壊すことがあったらしい。こうした爆発的な音楽は、抑圧された怒りや不満などを浄化させる効果を持っている。


ドヴォルザーク[1841-1904]
  代表作 交響曲7、8、9番。スラブ舞曲集、序曲、弦楽四重奏曲、チェロ協奏曲など。
チェコの国民楽派である彼は、ニューヨークの音楽学校の校長としてアメリカに渡ったが、ホームシックになり、「新世界から」という傑作を生んだ。しばしば「新世界」と呼ばれることがあるが、正しくない。それは新世界すなわちアメリカから祖国に思いをはせて作曲されたもので、新世界を描いた曲ではないからだ。祖国への郷愁を感じさせる曲調を持つが、これは同時に魂の霊的故郷への郷愁も刺激する効果を持っている。また、全般的に楽観的な考え方や前向きな活力、人生の喜びが発見できるような効能を持つ。

彼は大の機関車ファンであったらしく、暇さえあれば機関車を見ていたという。自分の作品への評価は厳しく、少しでも出来が悪いと楽譜を破棄してしまった。36歳のときには3人の子供を次々に失うという悲劇に襲われている。彼の音楽からくる生命の躍動は、こうした試練を乗り越えた末に到達したものであろう。


グリーグ[1843-1907]
  代表作 組曲「ペールギュント」「抒情組曲」「ピアノ協奏曲イ短調」
彼が残した言葉のうちで私が好きなのは、「オリジナリティは重要ではない、重要なのは感情の真実さである」という言葉だ。オリジナリティが重要ではないとは思わないが、いたずらに奇をてらった現代音楽の風潮(すべてとはいわないが)は好きになれない。大切なのは自らの感情に誠実になって音楽作りをすることだ。
グリーグの作品は、そんな音楽である。潜在意識に訴えかける傾向が強く、霊的故郷に対する懐かしさや、故郷から離れてしまった哀愁のようなものが伝わる。そのため、魂の意識を目覚めさせる刺激になるだろう。


リムスキー・コルサコフ[1844-1908]
  代表作 交響組曲「シェラザード」、「スペイン奇想曲」、オペラ「金鶏」、交響曲第2番 その他。 
ムソルグスキーと同じくロシア国民楽派のひとりであった彼は、管弦楽法の大家で、彼の残した教科書は今でも使われている。
彼の代表作「シェラザード」に関していえば、これはアラビアンナイトの話を音楽で綴ったものなのであるが、まず何といってもその色彩感溢れるオーケストレーション(管弦楽への編曲法)の見事さに驚かされる。目にも鮮やかな音に、日常の煩わしさからしばし解放され、ストレス解消と、気分転換に大きな効果を発揮するだろう。


フォーレ[1845-1924]
  代表作 「レクイエム」、組曲「ペレアスとメリザンド」、弦楽四重奏曲など。
 やさしく慎ましい性格であった彼は、多くの室内楽曲を残しているが、やはり「レクイエム」がその真髄であろう。この曲は、魂の浄化と平和と安らぎに大きく貢献してくれる傑作である。他の曲も、人間的なあたたかみに溢れた傑作が多い。


マーラー[1860-1911]
  代表作 10曲の交響曲、歌曲など。
「交響曲は世界のあらゆるものを包含しなければならない」と語ったマーラーであるが、その言葉通り、彼の作品にはあらゆるものが包含されている。美も醜も、聖も俗も、善も悪も、怒りも優しさも、絶望も希望も、悲しみも喜びも、すべてが表現されている。だが、単なる羅列ではなく、それらが全体との関連で意味づけされていき、しだいに統一されて神的な境地の高みにまで展開されていくところが、彼の音楽のすばらしさである。マーラーの音楽は哲学的であり、混沌とした多様な価値観に生きるわれわれに、ある明確な指針を与えてくれる。人生の選択や生き方に迷ったときには、大きなヒントや霊感を与えてくれるだろう。


ディーリアス[1862-1934]
  代表作 「フロリダ」、「春を告げるカッコウ」、「夏の歌」、その他。
彼の音楽活動は、41歳で結婚してから始まる。ほとんど世を捨てたような隠棲生活を始め、自然をテーマにした曲作りに専念した。65歳になると、全盲となり両手足の麻痺という悲劇に見舞われるが、友人の助けを借りて口述で作曲に励んだ。彼の音楽から、すがすがしい気持ちにさせてくれる一種の清涼剤としての効能を見いだすことができる。


ドヴュッシー[1862-1918]
  代表作 交響詩「海」「牧神の午後への前奏曲」「ベルガマスク組曲」、その他。
彼の作風は、モネ、セザンヌ、ドガといった印象派の絵にたとえられる。それは音の使い方が、まるで彼らの絵の色使いのようなパステル・カラー調だからである。
洗練された彼の音楽は、精神を調律させて、高い治癒的効果を持つようである。精神を安定させ、適度な官能的刺激によってリラックスに導き、気持ちを楽にし、自由と解放感をもたらしてくれるだろう。


R・シュトラウス[1864-1949]
  代表作 「ツァラトゥストラはかく語りき」、「英雄の生涯」「アルプス交響曲」「死と変容」その他。
彼の音楽は重厚な宇宙的響きが感じられるが、ワーグナーやブルックナーのような天上的なものではなく、むしろ地上的な活動力を刺激する効果を持っている。彼自身がそうであったように、作品も全般的に楽観的なものが感じられる。その点で、つまらないことにくよくよする傾向のある人には、何らかの効果が期待できるかもしれない。
ただ、「死と変容」に関していえば、宗教的かつ神秘的な雰囲気に満ちており、気持ちを不思議に静めて清める効果があるようだ。


グラズノフ[1865-1936]
  代表作 8つの交響曲、幻想曲「海」、「春」バイオリン協奏曲、その他。
作品は内面的な要素が強く、なかなか抑制が効いている。自然をテーマにした美しい曲を残しており、新鮮ですがすがしい感情に導く効能がある。また自然への愛情や畏敬の念を芽生えさせてくれる。


シベリウス[1865-1957]
 代表作 8つの交響曲、交響詩「フィンランディア」、バイオリン協奏曲など。
自然を感じさせるさわやかな音楽を残したが、自然を直接的に描写したというよりは、人間の目を通して、その思いを綴ったというべきであろう。年を経るにつれ、作風はより内面的に、瞑想的に深まっていき、60歳にして作曲活動を突然やめ、その後死ぬまでの30年間は、自然と対話しながら隠棲生活を送った。シベリウスの音楽は、自然という題材をもちながらも、宗教的で深遠な感情がこめられており、聴く者の心を崇高なものに近づける効能をもつ。


サティ[1866-1925]
  代表作 「3つのジムノペティ」「3つの梨の形をした小品」歌曲「私はあなたが大好き」、その他。
サティは「指導者イエスの芸術の首都教会」という宗教団体を作り、教祖となった経験を持つ。生涯を独身で通し、パリからかなり離れた、寂しい小さな街にあるアパートの部屋にはだれも入れず、孤独と秘密におおわれた不思議な作曲家であった。彼の残した代表的ピアノ作品ジムノペティからも、そうした神秘的な雰囲気が感じられる。

彼の音楽のユニークな点に「家具の音楽」と分類された一連の曲がある。これは最初から鑑賞を目的とせず、文字通り家具のような存在の音楽だというのだ。今日でいえばBGMというところだろう。この曲を発表したときのことが面白い。まじめに演奏に耳を傾けようとした聴衆に向かってサティは、「おしゃべりしろ! 歩きまわれ! 音楽を聴くんじゃない!」と怒鳴ったという。

サティがどのような意図でこうした曲を発表したのか、その真意は研究不足のためよくわからない。多少の冗談気はあったのかもしれない。だが、音楽を人間とはまったく無関係の存在として独立させたときに、むしろ音楽と人間との真の関係が生まれるようにも思われる。全般としては、サティの音楽は、聴く者の感情を洗練し、すっきりと調律する効果があるようだ。


カリンニコフ[1866-1901]
  代表作 2つの交響曲、「皇帝ボリス」「杉と棕櫚」「ニンフ」など。
今のところ知名度の低いロシアのこの作曲家は、しかしどの偉大な作曲家に勝るとも劣らないすばらしい才能の持ち主であった。早逝ゆえに作品数は少ないが、残されたものは珠玉の絶品ばかりである。特に交響曲第1番は、哀愁を帯びた旋律が美しい名曲中の名曲だ。第2交響曲は、さらに輪をかけてすばらしい。

それは至純を極めた美しい叙情性と、躍動する生命の喜びの賛歌である。オーケストレーションの鋭い技法を駆使しながらも、それを意識させない味わい深い響き、個々の楽器は独自の旋律を伸びやかに歌う。それでいて全体がひとつに調和して進行していくという、つまりは対位法音楽の最高傑作なのである。ひたむきで純粋で、聴く者に勇気と光明を与えてくれるだろう。私が本書で目指していたものが、この交響曲にはすべてこめられている。ぜひ多くの人に聴いてもらいたい作曲家である。


スクリャービン[1872-1915]
  代表作 交響曲3番「神聖な詩」、4番「法悦の詩」5番「プロメテウス」、10のピアノ・ソナタなど。
彼は、神秘和音なる独自の音階を開発するなど、今日の現代音楽への足掛かりを築いた人物でもある。神智学者でもあったため、その作品も神秘性が濃厚である。しばしばそれは、霊的な異次元空間に導かれていくような印象を受ける。実際、彼が作曲にこめられた意図は、「音楽によって世俗から離脱させ、より高い精神的かつ霊的な境地へと導くこと」であった。

彼は、最初に官能的な楽想を配置して聴く者の気持ちを浄化させ、次に神秘的で瞑想的な楽想を持ってきて調律させようとしている。まさに音楽療法の理論にかなった構成なのである。
この意図通り、彼の作品は人間の霊的直感性を刺激し、開発する効能をもつ。ある人の説によれば、彼の音楽は人間の霊的中枢チャクラを目覚めさせる意図で作曲されたという。また、共感覚に敏感な人は、スクリャービンの交響曲を聴くと色彩が見えるらしい。実際に見たという人からの、次のような報告がある。

「私は今までに二度、スクリャービンの曲の演奏中に眼のくらむような色と光をみた。私はそれに対して予想していたわけでもないし、また別の時点にそれを繰り返すこともできない。それらは突然起こったのだ。私が光をみたのは予期しないことであったし、説明できるような、あるいは役に立つ目的もなかったのである。その経験はせいぜい数秒しか続かず、そして消え去った」


ラフマニノフ[1873-1943]
  代表作 3つの交響曲、4つのピアノ協奏曲、「鐘」「ヴォカリーズ」「公共的舞曲」、その他。
ロシアの貴族に生まれたラフマニノフは、若い頃からピアニストや作曲家としてもてはやされたが、交響曲第1番の初演が不評に終わり、深刻なノイローゼになって作曲ができなくなってしまった。ところが幸い、優秀な精神科医に出会い、催眠療法を施してもらって回復、後は順調に成功の階段をのぼり、巨万の富を築いてアメリカに豪邸を構えた。

はた目には恵まれた人生のように思われるが、その作品の随所に哀愁を帯びたメロディが登場する。もちろん、喜びのある曲もあるし、楽観性と悲観性、神聖さと官能など、あらゆる感情が盛り込まれ、しばしば葛藤が伴っている曲さえあるが、やはりラフマニノフの面目躍如たるところは、そのロマンチックな哀愁ではないだろうか。それゆえに、胸に悲哀を持つ人にとっては気持ちを浄化させ、なおかつ生きる勇気を与えてくれるだろう。


シェーンベルク[1874-1951]
  代表作 「清められた夜」、「月に憑かれたピエロ」、「グレの歌」「ワルシャワの生き残り」、その他。
12音階という、馴染みのない音階システムで音楽を作ったことで有名である。12音階について、私はそれをうまく説明する知識を持たないのであるが、全音や半音の区別なく平等に扱われた12の音階を、ある一定の規則性のもとに演奏するというものらしい。簡単にいえば、ハ長調とかイ短調といった「調性」をなくしてしまったわけである。

「清められた夜」は、美しい旋律を持ってはいるが、どことなく暗く、何かの緊張をはらんでいるように思われ、手放しで調律音楽になるかどうかは疑問である。「月に憑かれたピエロ」は、こちらまで頭が狂ってしまうような不気味なもので、ある意味でカタルシス効果があるのかもしれないが、あまり頻繁に聴くことは勧められない。「ワルシャワの生き残り」は、ナチスに対する怨念と復讐の音楽であり、心穏やかに聴けるものではないことは、覚悟しておいた方がいい。伝記によれば、シェーンベルクはかなり自我の強い人間であったようだ。だからというわけではないが、自我が強すぎる場合、それは幻想と歪みの狂気へと傾きやすい。そのため、この種の悩みをかかえている人にとっては、浄化音楽として効果があるかもしれない。


ホルスト[1874-1934]
  代表作 組曲「惑星」、「吹奏楽のための組曲」、「日本組曲」、その他。
ホルストといえば「惑星」で、大変にポピュラーな曲となった。7つの惑星とその占星術的意味を結び付け、すばらしい管弦楽の手法で描いた傑作である。各惑星につけられた副題が、すなわち音楽の効能を暗示しているといえる。

第1曲の「火星」は戦争の神で、強烈な好戦的リズムにより、怒りを浄化する効果がある。第2曲の「金星」は平和の神で、うってかわって穏やかな平和な曲となり、調律音楽となるだろう。第4曲「木星」快楽の神および第6曲「天王星」魔術の神は、生命エネルギーを高める効果がある。最後の「海王星」神秘の神では、歌詞を持たない女性合唱の歌声が遠方から聞こえ、文字通り神秘的で、霊的な感性を養う効果があるだろう。


ヴォーン・ウイリアムズ[1872-1958]
  代表作 「グリーンスリーブスによる幻想曲」、「タリスの主題による幻想曲」9曲の交響曲その他。
イギリスを代表する作曲家の一人。印象主義の作風から出発し、一時、新古典主義へ傾倒した。イギリス民謡を題材にした作品が多い。彼の作品は情緒性豊かであるが、透明感があり抑制が効いている。調和的で健康的な曲がある一方で、不協和音が大胆に取り入れられ、人をとてつもなく不安に陥れる曲もある。

神秘主義的な傾向があったようで、瞑想に浸ると放心状態になり、雨の中を平気で濡れながら歩いていたという。また服装もまったく気にせず無頓着で、やや浮世離れした傾向があったようだ。都会を描いたかと思うと自然を描き、俗世を描いたかと思うと霊的な楽想が顔を出す。あらゆる異質な感情を包含した作曲活動をしており、ローズマリー・ブラウンではないが、複数の作曲家が彼に憑依して曲を書かせているような印象を受ける。
したがって彼の音楽は、対極的な2つの観念のバランスを取る効果や、病的意識、とりわけ不安などに対して浄化の効果があるように思われる。


ラヴェル[1875-1937]
  代表作 「マ・メール・ロア」、「ダフニスとクロエ」「亡き王女のためのパヴァーヌ」その他。
ラベルは「音の魔術師」といわれる。その繊細で色彩豊かな音の作り方のためである。彼は戦争で看護兵として働いた後に不眠症になり、世の中に対する不安と嫌悪、孤独によって、短期間のうちに白髪頭に変わってしまうほど苦悩した。そうした彼の繊細な神経が、作品にも反映されている。「ボレロ」が有名であるが、これは習作のつもりで作った曲だという。実際、ラヴェルの本質を反映しているのは、他の抒情的で洗練された音楽である。私としては「ダフニスとクロエ」をお勧めしたい。幻想的で霊的な世界をイメージさせ、新たな地平が開けたような希望を感じさせる。それは苦悩を解毒させる効能を持っている。


レスピーギ[1879-1936]
  代表作「ローマの噴水・松・祭り」「リュートのための古風な舞曲とアリア」
レスピーギといえばローマ3部作だが、曲線的な旋律に溢れたこの作品は明るく楽しくにぎやかで、こだわりなく人生を楽しむ楽観性を養う意味からも評価できる。何よりも色彩感がすばらしい。また、「リュートのための古風な舞曲とアリア」は、美しく叙情的な旋律で心の安らぎ、平和をもたらしてくれるだろう。


バルトーク[1881-1945]
  代表作 「オーケストラのための協奏曲」、「中国の不思議な役人」「弦楽のためのディベルトメント」、その他。彼は幼い頃から虚弱体質で病気がち、生涯を通して傷つきやすい神経の持ち主であったが、その音楽は強靭で生命力に溢れている。民謡を取り入れながらも、現代音楽の、やや無機的ともいえる作風が特徴だ。
リズムや打楽器を重視している点から、抑圧された生命力や願望などを解放させる効能を持っている。また、ある種の知的統制感を与える効果もあるようで、頭が混乱しているようなときに聴くと、スッキリするかもしれない。


ストラヴィンスキー[1882-1971]
  代表作 「火の鳥」、「ペトルーシュカ」、「春の祭典」、その他。
彼の作風は時代によってずいぶん異なるのであるが、いわゆる3大バレーを彼のスタイルとしてもいいだろう。「春の祭典」は、異教徒の野蛮な儀式を描いたもので、いけにえに選ばれた処女たちが、踊り狂って息絶えるという、そんな内容を持っている。無骨なリズムが特徴で、ティンパニが活躍し、金管や弦楽器は、打楽器のような鳴らされ方をする。原始的な闘争本能を抑圧させがちな現代人にとっては、浄化音楽としての効果が高いといえる。

「火の鳥」は、この中に浄化音楽と調律音楽とが、音楽療法的な視点から見てうまい具合に配列されている。これ1曲聴けば音楽トリートメントが一応終了するともいえる。
冒頭の不気味な低音リズムは不安を駆り立て、中間部で訪れる「魔王カスチュイの凶悪な踊り」では、怒りが爆発する。ここまでで読者は浄化プロセスを終了する。やがて穏やかで平和な曲調に移り変わり、気持ちが調律されて心地よいアルファ状態に導かれる。そして最後に、輝かしく力強く盛り上がり、夢うつつの状態から覚醒に導かれて終わる。


プロコフィエフ[1891-1953]
  代表作 7つの交響曲、ピアノ協奏曲、バイオリン協奏曲、バレエ「ロミオとジュリエット」「ピーターと狼」など。
彼は帝政ロシアからスターリン体制のソビエトという激動の時代を生き、革命後はフランスやアメリカに亡命して活躍したが、やがて祖国に戻る。破壊的なほどの躍動感とクールな叙情性が基本だが、一方で無機的な傾向もあり、自由自在に旋律を操っている印象を受ける。すなわち、彼の音楽には多彩な心情がこめられているのであり、それらがすっきりとうまく処理されているのである。そのため、いろいろと雑念が浮かんで考えがまとまらないような場合、決断をしなければならないような場合に、内的バランスを回復する効果が期待できるだろう。


ガーシュイン[1898-1937]
  代表作 「パリのアメリカ人」、「ラプソディー・イン・ブルー」オペラ「ポギーとベス」ピアノ協奏曲など。
音楽評論家の志鳥栄八朗氏の言葉を引用させていただくと、「そのジャズの手法によるすこぶる華やかでしゃれた作風とは対照的に、彼の日常生活は、きわめて慎ましかったのである。自分に対してはつねに厳しく、思慮深く、自己批判を忘れず、賭事はもちろんのこと、深酒もせず、食事もぜいたくを好まなかったという。

その反面他人に対しては、とてつもなくやさしく寛大で、自分が天才作曲家であることを自慢したことはなかった。そうした彼の控えめな性格は、老若男女を問わず、だれからも愛された」ということだ。彼には、やや禁欲的な傾向があったのかもしれない。そのためその音楽は、自分自身をうまく表現できず、禁欲的に抑えているような人に対して、うまく自己表現する開放的な刺激を与えてくれる効能を持っている。


ショスタコーヴィチ[1906-1975]
  代表作 15曲の交響曲、15曲の弦楽四重奏曲。他、ピアノやチェロなどの協奏曲など。
彼の音楽は、当時のソ連体勢との関連で考えないわけにはいかない。やむなく社会主義を賛美する作品を書く一方で、本音が見え隠れする音楽も手掛けている。彼の交響曲のほとんどが、何か厚い黒雲のようなものでおおわれているのは、そのためであろう。そうした抑圧の下で、反抗的で悲痛に満ちた叫びや激烈なまでの怒りが爆発し、痛烈な皮肉とユーモアが顔を出す。緊張、闘争、緊迫、抑圧、爆発、陰鬱さが感じられる。

通常は音楽の土台を支える脇役的なコントラバスが、比較的早いリズムでメロディを打ち鳴らす。また何かに衝突したように急激に楽想が変化する。こうした音楽作りには無意識の病的感情を刺激し表面化させる効果がある。そのため、ショスタコーヴィッチの音楽は、とりわけ怒りや不満を抑圧させている人にとっては絶好の浄化音楽だといえる。
by sigma8jp | 2008-11-18 22:15 | 「天球の音楽」と聖なる七音 | Comments(0)
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