SF小説:『アンバーの九王子』とプラトンの比喩

 25年くらい前に読んだSF小説で 『アンバーの九王子』(絶版)がある。ここに書かれた物語りが今になって、宇宙の〔真実の世界〕から隔離された、地球という〔影の世界〕へ置かれた我々の世界と重なって見えてくる。そのため、そこに隠された真実を暴きたくなる衝動に駆られ、不思議と何か新鮮なリアリティーを感じてしまうのである。

そして、思うことに、この〔牢獄の世界〕から、〔真実の世界〕への帰還を果たすことが我々にとって真の「魂の救済」になるということを感じたからだ。ここに出てくる「九王子」という響きも、やはり「ザ・ナイン」のいる時空を超えた真実の世界である〔魂の故郷〕に思いを馳せてしまう。

〔物語り〕
 あらゆる世界の大元にして唯一の〈真世界〉、アンバー。地球を含む他の世界は、実はすべてアンバーの影に過ぎない。その真世界アンバーを統べる王オベロンが、突如姿を消した。明確な後継者が指名されないまま、空位となったアンバーの王位。残された王子たちは、それぞれの野望・策謀を胸に秘め、王位をめぐって血族間の容赦ない駆け引きと争いを繰り広げる。

一方その頃、影の世界のひとつである地球で、ひとりの男が目を覚ました。私立病院のベッドに横たわる彼は、交通事故にあってここに運び込まれたらしい。男は自分に関する一切の記憶を失っていたのだが、異常な回復力や「アンバー」という言葉が引き起こす懐かしい響きに、自らの素性が尋常ならざるものであることを悟る。病院を抜け出した彼は記憶喪失であることを隠し、手探りで自分に関する情報収集を進めるが──実は彼こそ、アンバーにおける有力な王位継承候補者のひとり、王子コーウィンだったのだ!


〔アンバーの九王子〕
  実は、彼、コーウィンはアンバーの九人の王子の一人であったのだ。私たちの地球は、アンバーのまわりに“影”として投影された無数の世界の一つにすぎず、アンバーこそがすべての核となる唯一の“真の世界”なのである。あらゆる世界の大元にして唯一の〈真世界〉、アンバー。地球を含む他の世界は、実はすべてアンバーの影に過ぎない。

アンバーの王家の一族には、“影”の世界を自由に往き来する力があり、彼らが想像できるかぎりの世界は“影”のどこかに存在するのである。

九王子の父親であり、アンバーの王であるオベロンが姿を消して長い時間が過ぎた今、アンバーの王位を狙って骨肉合い食む兄弟同士の争いが進行していて、コーウィンの記憶喪失もその争いのためだった。物語は、このアンバーの王権争いに“混沌の宮殿”の陰謀を絡め、予測のつかない複雑な様相を見せて展開することになる。

その真世界アンバーを統べる王オベロンが、突如姿を消した。明確な後継者が指名されないまま、空位となったアンバーの王位。残された王子たちは、それぞれの野望・策謀を胸に秘め、王位をめぐって血族間の容赦ない駆け引きと争いを繰り広げる

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〔真世界シリーズ5巻〕
『アンバーの九王子』 NINE PRINCES IN AMBER〈ハヤカワSF316〉
訳:岡部宏之/カバー:中原 脩/発行:1978年10月31日

b0140046_026425.jpg  アンバー――それは唯一の真の世界。地球を含む他のパラレル・ワールドはすべてその影にすぎない。このアンバーの空位となった王座を狙い、九人の王子たちの間に骨肉の争いがおこった。権謀術策の嵐はアンバーだけでなく他の世界をも巻きこんでいく。その動乱のさなか、王子コーウィンは敵の術策に陥り記憶を消された後、影の世界“地球”へと追放された。だが、交通事故を契機に少しずつ記憶の戻ってきたコーウィンは、故郷アンバーへと向かった。海底の迷宮、竜、異形の影の軍勢――華麗なイメージと流麗な筆致で幻想の真世界アンバーを描くシリーズ第1弾!

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『アヴァロンの銃』 THE GUNS OF AVALON〈ハヤカワSF418〉
訳:岡部宏之/カバー:中原 脩/発行:1980年12月31日

b0140046_0265976.jpg  兄エリックの奸計に陥り、盲目にされ土牢に閉じこめられた真世界アンバーの王子コーウィン。しかし、くり抜かれた両眼の再生を機に、ついに脱獄に成功! 奇しくもかつて彼自身が追放した逆臣ガネロンの治める国に身を寄せたコーウィンは、黒い“輪”より襲来する邪悪な魔物軍勢に敢然と立ち向かった。だが、この黒い軍勢を打ち破り、兄エリックへの復讐を果たすべく、一路アンバーへと戻っていったかれを待っていたのは――またしても飛竜を駆る“輪”の化け物軍勢の大襲撃に滅亡寸前のアンバーと瀕死のエリックだった……待望の真世界シリーズ第2弾!

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『ユニコーンの徴』 SIGN OF THE UNICORN〈ハヤカワSF419〉
訳:岡部宏之/カバー:中原 脩/発行:1980年12月31日

b0140046_0271551.jpg  エメラルドグリーンの瞳に金色の角と蹄を持つユニコーンが住む小さな森……この美しい森で王子ケインが惨殺された。念願の即位を目前に、王子コーウィンは犯人の濡れ衣を着せられてしまう。疑惑と不安の渦巻く宮廷で再び兄弟姉妹の虚々実々の醜い争いが始まった。そして、事件の鍵を握る王子ブランドもナイフで刺され、事態は混迷の度を増してゆく……いったいコーウィン失脚の策謀をめぐらせたのは誰か? 兄エリックより譲られた“審判の宝石”の力に助けられて、彼は次々と襲いかかる災厄に立ち向かうが……ますます佳境にはいる、好評のシリーズ第3弾!

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『オベロンの手』 THE HAND OF OBERON〈ハヤカワSF448〉
訳:岡部宏之/カバー:中原 脩/発行:1981年10月15日

b0140046_027313.jpg  地球、レブマなど〈影の世界〉と〈真の世界〉アンバーを結ぶ“パターン”。“空でもあり、海でもあるもの”の“下でもあり、上でもある”楕円形の岩棚に鋳込まれているパターンが、なにものかによって破壊された。だれが、いったいなんのために……。アンバーの王子コーウィンは、その謎を解き、修復するためにやってきた。そこで思わぬものを発見した。それは、なかば見おぼえのある男の描かれた一枚のトランプだった――トランプに運命をあやつられ、翻弄されるアンバーの人びとの物語を、幻想味あふれる筆致で華麗に展開、いよいよ佳境に入るシリーズ第4弾。

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『混沌の宮廷』 THE COURTS OF CHAOS〈ハヤカワSF458〉
訳:岡部宏之/カバー:中原 脩/発行:1981年12月15日

b0140046_0275511.jpg  〈真の世界〉アンバーは血に染まり、今まさに混沌の勢力に蹂躙されんとしていた。仮面を捨て王座に戻ったオベロンは、すべての礎“パターン”を再建せんと死力を尽くす。一方、コーウィン以下兄弟は、混沌の宮廷と手を組みアンバーを掌中にせんとする狂える弟ブランドとの熾烈な戦いに敢然と立ち向かった。だが、再燃する王位継承問題に兄弟の足並は定まらない。やがて迫りくる最後の戦いの時、コーウィンは勝敗の鍵となる地獄騎行に、王の密命を帯び一人旅立つのだが……!? 人々の愛と憎しみが、華麗な幻想世界を舞台に見事に綾なされる傑作シリーズ堂々完結!

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何といっても、このSF小説(真の世界アンバー)を書いたロジャー・ゼラズニが、プラトン主義者であった可能性が高い。というのも、この物語りの背景にプラトンの比喩と、グノーシスの比喩が盛んに用いられているからである。

■プラトンは「想起説」
  我々は、生まれてこのかた、様々な感覚に振り回され、真実なるイデアが見えなくなり、感覚からなる「影の世界」を「実在の世界」と信じてしまった。その結果、イデアからなる「真実の世界」を忘却の彼方に追いやってしまった。

「現実界は、完全な世界である「イデア界」の影である。だから、現実界に、イデア界のものを見つける(想起する)と懐かしくなる」。「人間は生まれる前にすべてを知っている。だから、「学ぶ」とか「探求する」とか呼ばれているのは、すでに獲得しながら忘れていた知識を想い起すこと。すなわち、「想起」(アナムネーシス) にほかならない」

プラトンは我々のうちに概念的、観念的知識をアプリオリに持ち合わせており、経験や鍛錬によって刺激され思い起こすというのである。 そして、前世で知識を経験し、それを思い出すというのは単なる理解を得易くする為のメタファーである。


■プラトンの「洞窟の比喩」
  プラトンはこのテーマにまことに美しい譬えを出した。人間は洞窟にとらわれた囚人であり、生まれてこのかた、そんな境遇に居つづけているので、真実が何んであるかを知ることができないという。というのも、どういうわけか、この洞窟の中では一つの方向しか見ることができないよう手足と首をきつく縛られているからである。

そこへ、洞窟の奥の壁の上に人形劇のような〔影絵の世界〕が美しく映し出さていて、人間はこれを〔真実の世界〕と見間違っているという。しかし、その影絵を背後から照射している太陽〔真実のイデア世界〕の光の存在に気付くことはないという。


このようにプラトンの「想起説」と、「洞窟の比喩」は、”真実の世界とは何か”という一つの示唆を我々に投げかけている。上記のSF小説:『新世界アンバー・シリーズ』は、この比喩を色濃く表現した小説であり、これを読むことで、プラトンの「想起」を刺激的に喚起させてくれる作品である。

そして、もう一つこの小説には、グノーシス主義における「宇宙的孤児性」の概念がある。これも我々は、地球というデミウルゴス(造物主=悪魔的神)によって支配されている〔影の世界〕に送り込まれた「宇宙の孤児」であるという思想がある。

この思想も、真世界アンバーへ帰還するためのヒントにはなるが、さすがに、この地球という〔影の世界〕へ送り込まれたのには、背後に【陰謀】が働いていた、とまでは多少飛躍し過ぎの感はあるが、どちらにしろ確かなことは、我々は「宇宙の孤児」であることには間違いない。

しかし、これも、まんざらフィクションとはいえないところがある。というのも、興味深いことに、神々の陰謀劇で代表されるものに、「イシス・オシリス神話」がある。これは、古代エジプトのヘリオポリス神話の九柱神の一人であるオシリス神の物語りであり、ここにも 「ザ・ナイン」=『アンバーの九王子』 の物語りと非常に似かよったところがある。

ヘリオポリスの九柱神の中で、王位はエニアグラムの頂点に位置するナンバー9のアトゥム神(ラー)である。真世界アンバーでは、このナンバー9に位置する王のオベロンが、突如姿を消してしまい明確な後継者が指名されないまま、空位となってしまったことが原因で、たちまちアンバーの王位を巡る争いが巻き起こってしまった。

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オシリス神は、同じヘリオポリスの九柱神の一人である悪神セトの【罠=陰謀】にはまり、記憶の象徴である身体を14の肉片にバラバラにされた後、ナイル川に捨てられた。このオシリス神の死は、同時に真実の世界の記憶を喪失したことに対応する。夫のオシリス神の復活を一番願ったのは、他でもない妻のイシス神であった。

オシリス神の復活は、14の肉片を一つの統一体として復元したときに起こる。イシスによるオシリス神の14の肉片の収集は、そのまま、『アンバー九王子』の主人公コーウィンが自分が何者かを探る記憶の収集と重なってくる。

このように記憶の収集は、そのまま宇宙の統一体である神の世界への記憶を取り戻す旅でもある。この記憶の集積回路である完全なる身体を取り戻したとき、始めて神々の世界〔真実の世界〕に帰還できる準備が整うのである。

上記のアンバー九王子のコーウィン同様、我々も真実の世界への記憶を取り戻す旅に出なくてはならない。我々にとって、この記憶喪失の原因となっているものに、過去世から積み重ねられてきた一種のカルマ的な歪みがあり、また同様に、衝撃的なショックによってバラバラになった魂の記憶=トラウマ(外傷)もある。

これら魂の傷を癒しつつも、失った魂の復元を図っていくことで、元にいた〔神の光の世界の記憶〕を取り戻す通路が整う。その上で、真実の世界を予感させる「想起」を振るい起こす必要がある。それにより完成された人体のテンプレートは、そのまま「カバラ生命の樹」の「アダム・カドモン」の完成図として形成されることとなる。

実は、このオシリス神とは、アダム・カドモンの象徴として登場してきた神であり、日本では、前回の頁で紹介した【神々の陰謀】によって、表鬼門(丑寅の方位)に押し込められた「国常立の神」である。ここに来ると、「節分の豆撒き」も、悪神セトの手助けをしているように思えてくる。この復活劇には、どうしても「水先案内人」であるイシス神の働きなくしては帰還できないのである。
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by sigma8jp | 2009-01-20 00:24 | 宇宙の超知性体「ザ・ナイン」 | Comments(0)
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