ユングは、男性の内的な理想的女性像を『アニマ』と呼び、女性の内的な理想的男性像を『アニムス』と呼びました。アニマとアニムスはラテン語で生命の息吹(風)とか魂(soul)とかいう意味ですが、この無意識から立ち上がってくるアニマとアニムスの元型イメージを夢などを介して体験するときに、エナンティオドロミアが起きやすくなるといいます。
社会環境に適応したり対人関係を維持する為に作り上げる『見せ掛けの自己像』や『表層的な人格』のことを『ペルソナ(仮面)』といいますが、余りに長期的かつ日常的にペルソナ(仮面)を用いて生活していると心理社会的ストレスが蓄積したり、本来の自然な人格を見失ったりしてしまいます。 その結果、アレキシシミア(失感情症)を常態化させたペルソナを被り続けて生活を送っていると、分析心理学の心理療法が目指す『個性化の過程・自己実現』と対極の方向に精神状態が布置(コンステレーション)され、心身症の身体疾患や神経症の精神症状が発現しやすくなります。 現代では、同性愛者やバイセクシャルなどのジェンダー・マイノリティ(セクシャル・マイノリティ)も多くいるので、アニマとアニムスを自分とは反対の性とすることにこだわる必要はないという考え方も出来ます。 ユングは恋愛感情や性的欲動も、アニマ・アニムスの元型イメージの投影(projection)によって説明できると考えます。アニマやアニムスは、『意識的な人生の生き方・対社会的(対他者的)な適応的な態度』を補償して、その人に精神的な安定感や幸福感を与えてくれるだけでなく、進むべき人生の進路や選ぶべき選択肢を暗示的に教えてくれる存在でもあるのです。 夢やイメージとして体験されるアニマやアニムスは、自己の性格特徴や行動パターンとは『正反対の特性』を示すことが多いとされています。それは、エナンティオドロミアの補償を行って、『心全体の相補性・全体性』を取り戻させようとする自己から独立した機能と無意識の目的性を持っているからです。 『影(シャドウ)』の元型は、『意識的態度に対する同性像のアンチテーゼ』として心にバランスのとれた全体性を回復させようとしますが、『アニマ・アニムス』の元型は、『意識的態度に対する異性像のアンチテーゼ』として自己に欠如した要素や特徴を補って心の相補性を実現しようとするのです。 影(シャドウ)をイメージで体験しているときには、不快感や抵抗感、否定感情を感じますが、アニマ・アニムスをイメージで体験しているときには、幸福感や恍惚感、肯定感情を感じやすくなるという特徴があります。 影(シャドウ)にせよ、アニマ・アニムスにせよ、物理的現実ではなく心理的現実に属するものですが、多くの場合、それらの元型のイメージが持つ感情や影響力は現実世界を生きる他者に投影されます。嫌悪感を抱いているそりの合わない人物には『影(シャドウ)』が投影されやすく、異性として理想的な魅力や誘惑的な特徴を持っている人物に『アニマ・アニムス』が投影されやすくなります。 内面の変容や経験としては、社会常識や性別役割分担などによって社会的に要請された『男らしい生き方(行動パターン)・女らしい生き方(行動パターン)』への反発や抵抗として、無意識領域に抑圧され排除された『反対の性の表象(アニマ・アニムス)』が立ち上がってくることになります。 アニマやアニムスは、人間の精神生活や人生過程を無意識的に規定する元型であり、ユングが錬金術の心理学研究から洞察したモチーフである『変容と統合』にも深く関わっています。アニマ・アニムスは、人格構造を『個性化の過程』のベクトルの方向へ変容させようとし、無意識領域の内容と意識領域の内容を自己実現の目的に貢献する形でバランスよく統合させる働きを持っています。 但し、いつも、個性化の過程や自己実現の目的に適った理想的な精神作用(人生の動機付け)をアニマ(アニムス)が及ぼしてくれるわけではなく、ある程度の偶然性と主体性によってアニマの実際の働きや影響力は左右されてきます。 また、ユング心理学(分析心理学)の性格理論であるタイプ論(内向性・外向性と思考・感情・感覚・直感の精神機能を組み合わせて類型化する性格論)にも、無意識の補償作用を当てはめて考えることが出来ます。 精神的なエネルギー(欲求・興味)を外部世界に向ける「外向性の性格類型の人」には「内向性のアニマ・アニムスのイメージ」が表出しやすくなり、精神的なエネルギーな精神内界に向ける「内向性の性格類型の人」には「外向性のアニマ・アニムスのイメージ」が表出しやすくなります。 その人にとって強力で優勢な精神機能についても、それとは正反対の作用をする精神機能を象徴化したアニマが現れてきます。例えば、理路整然と論理的に物事を考え、客観的なデータをもとに判断するような『思考タイプの人』には、その場の好き嫌いの選好や、感情的な意見や判断によって物事を決定する『感情タイプのアニマ』がイメージや夢として生起したりします。 実際に自分の目や耳といった感覚器官で事象を知覚してから行動を起こす『感覚タイプの人』には、突然、心の中に浮かび上がってきたイメージやアイデアに従って行動を起こす『直感タイプのアニマ』が体験されやすくなります。 男性性と女性性が一対となっているシジミーの元型は、人間世界における『結婚の象徴』であり、精神内界での結婚とは、意識領域にアニマ(アニムス)がイメージとして侵入してきて結合し統合することを意味します。 夢や幻想、想像のイメージとして心の内部に湧き上がってくるアニマ(男性の内面の理想的女性像)には、4つの発達段階があるとユングは定義しました。一般に、性的要素が存在せず敬愛や崇拝の対象とさえ見なされる『叡智のアニマ』が最も高次のアニマであり、性的欲求の対象としてセクシャルな形態的な美が強調される『生物学的なアニマ』が最も低次のアニマであるとされますが、以下の4つのアニマには発達上の前後関係や優劣関係はないとする考え方もあります。
by sigma8jp
| 2008-11-10 20:56
| ユングの「アーキ・タイプ」
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