ある意味で作曲家たちも、霊的なインスピレーションを感じ取る。だが、それを自分の個性的手法を通して曲にする。ただ楽譜に書き写すだけではない。それが霊媒とは異なるところだ。 魂の霊的故郷で響く音楽は、あらゆるすばらしい楽想を持っている。あるときは勇壮でたくましく、あるときは繊細でやさしい。
あるときは軽快で明るく、またあるときは厳粛である。作曲家たちは、それらのうちから自分の個性に合った曲を感じ取り、それを楽譜に表現するのである。 すなわち、感性のアンテナを霊界の流出源にまでのばし、そこから自分自身の個性にもっとも親近性のある楽想の曲を感受し、それを音楽に書きとめるというわけだ。 たとえばワーグナーは、彼の個性を考えると「活動性や情熱」といった楽想を感受しやすかったのであり、ドヴュッシーは「共感や繊細さ」を感受しやすい個性を持っていたのであろう。 もちろん、ひとりの作曲家でも、いろいろなタイプの曲を作り出すことがある。 いわゆる「レパートリー」の広い作曲家は、ワーグナー的な音楽も書けるし、ドヴュッシー的な音楽も書けるかもしれない。そういう人は、チャンネル数の多いラジオ受信機のようなもので、霊的世界のいくつかの楽想を感受できる多面的個性を持っているわけだ。 ところで、そのようにして作曲されたすばらしい名曲を耳にすると、それを作曲した人も、さぞかしすばらしい人間性の持ち主に違いないと思ったりする。だが、残念ながらそうとは限らない。偉大な作曲家の中には、世間的にほめられない人がけっこう多いのである。 その典型として例をあげるならば、やはりワーグナーであろう。私自身は別にワーグナーが嫌いなわけではない。だが今回、本書を執筆するにあたり、あらためて彼についての評論や伝記などを読んでみたが、その自己中心性、誇大妄想、女狂いなど、控えめにいってもひんしゅく者であった。 妻をワーグナーにとられた指揮者ハンス・フォン・ビューローの言葉を借りれば、「作品においては高貴であり、行動においては口にできぬほど低俗である」ということになる。 ワーグナーの他には、あの繊細で美しい音楽を書いたドヴュッシーなども、女性問題ではかなり破廉恥であった。 モーツァルトの音楽はきわめて上品であるが、彼自身は意外に下品であったし、人間愛を歌ったベートーベンなども、気難しく人間嫌いな傾向があった。神々しい音楽を作曲したバッハであるが、物質的で金儲けに関心があったと、数え上げればきりがない。 もちろん、すばらしい人間性を発揮した作曲家もいる。何よりもリストがそうだ。彼は惚れ惚れするような男の中の男だ。最近ではバーンスタインが、やはり人間愛に満ちたすばらしい作曲家(そして指揮者)であったといってもいいだろう。 だが、こうした人たちはむしろ例外なのであり、たいていは、その美しい作品とは裏腹に、かなりクセのある、どちらかといえば問題のある人物が多かったことは事実だ。しかも作品の内容とは正反対の欠点を持っていることが多いのである。 すなわち、人間愛を描いた人間嫌いのベートーベン、上品な作品を残した下品なモーツァルト、神聖な曲を書いた世俗のバッハといったようにである。 いったいなぜ、こういうことが起きるのだろうか? それはおそらく、次のような理由によるのだろう。 まず、作曲家の霊感の源である霊的故郷は、すべてが美徳だけの、調和した一元的な世界だ。そこには光だけがあり、影がない。 それに対して地上世界は、本質的に二元的である。つまり一方があれば他方がある。光があれば陰ができる。善があれば悪がある。男がいれば女がいる。 表があれば裏がある。プラス電気があればマイナス電気がある。このように、対極的になっている。しかも、一方が強ければ必ず他方も強い。プラス電気が百ボルトならマイナス電気も百ボルトだ。アルコールの快楽に溺れるほど、後にくる禁断症状も苦しくなる。こんな具合である。 そういうわけで、霊的故郷からすばらしい偉大さを感受するには、それと同じくらいの反偉大さ、つまり低俗さを知らなければならないのである。両者は植物の双葉のようなもので、どちらか一方だけを伸ばすというわけにはいかない。暗闇を知らなければ明るさがわからないように、地上世界ではひとつを背負えばその対極も背負わなければならないようになっている。 ワーグナーを例にあげれば、彼が感受した霊的故郷の美徳は、活動・情熱・開拓といったものである。ワーグナーはそれを見事に描き切った。だが、そうした美徳の対極である攻撃性・狂信・自己顕示・誇大妄想をも、背負わなければならなかったのだ。 逆の言い方をすれば、そういうものを背負ったからこそ、対極のすばらしい美徳も感受できたのである。これはモーツァルトもベートーベンもドヴュッシーもバッハも同じである。 したがって、彼らは欠点だけを持っていたわけではなく、すばらしい長所も持っていたわけだ。ただその長所が人格に反映されるよりは、作品に反映されたのである。 もちろん、その長所が人格にも反映されれば理想であろう。だが、もしどちらかの選択しかできないとしたならば、作品へ反映された方がいいに決まっている。彼らの美徳は、永遠にわたってあらゆる人々の光になり、人類にはかりしれない貢献をするからである。 では、そうして霊的故郷の音楽を表した大作曲家について、調べてみることにしよう。彼らはその個性を通して、霊的故郷のどのような美徳を音楽に表現したのだろうか。また、それにより世界人類に与えた影響、およびわれわれ自身、どのような影響を受けることができるか、また音楽療法的にどのような効能があるのかなどをまとめてみた。 もちろん、ひとりの作曲家でもいろいろなタイプの音楽があるわけで、一概に特定できるものではないが、その根底に流れる基本的な理念を焦点として解説したつもりである。 さらに、これはひとつの見方であって、作曲家の可能性を限定するものはない。 たぶんに我田引水的な部分もみられると思うが、ご了承いただきたい。音楽は奥が深く、まだまだ探求の過程にすぎないからである。読者の方々からのご指摘をいただければ幸いである。 なお、解説文が少ない、あるいは掲載されていない作曲家については、これを否定するものではない。単に私自身の理解力の未熟さが反映されたにすぎない。お許し願いたい。
by sigma8jp
| 2008-11-18 22:00
| 「天球の音楽」と聖なる七音
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