グルジェフの説く「人間論」
■人間の「3種の脳」と「発達の7段階」 グルジェフは人間というものをどうとらえていたのだろうか。 彼はまず、人間は3種の脳を持っている、という。この3種の脳はビルの階のように、それぞれ機能の異なる3つの段階に対応している。 3階は知性センター、2階は感情センター、1階は動作センター、本能センター、性センターである。なお、普通人はほとんど活用していないが、3階には〈高次の知性センター〉、2階には〈高次の感情センター〉が存在する。 そして、これらの脳のセンターの活用の仕方によって、人間は7段階に分類される、と彼はいう。 人間第1番、2番、3番は普通人の3つのタイプだといっていい。 すなわち、人間第1番はその重心が動作──本能センターにある本能型人間、欲望のままに動きやすい人間だ。第2番は重心が感情センターにある感情型人間、好き嫌いがその行動の基準になる。第3番は重心が知性センターにある思考型人間、なにごとにつけて観念的である。この分類法は、我々が人間を観察するとき、すぐに役に立つだろう。 が、人間第4番以上は、いずれかの道に努力することで実を結んだ結果としてしか到達できない。当然のことながら、上の段階へいくほどその属性は高度のものとなり、人間第7番は、意志、完全な意識、恒久不変の〈私〉、個体性、そして不死性という、人間に可能な能力のすべてを所有している。 ■4つの体 (肉体─アストラル体─メンタル体─原因体) グルジェフは、これを別の角度から次のように説明する。 「古代のある教えによれば、人間に可能なかぎりの発展を成し遂げた人間、本当の意味での人間は、4つの体から成り立っている、という。 これら4つの体は、しだいに微細になり、相互に融合し、そして、ある明確な関係をもっているが独自の行動ができる4つの独立した有機体を形成するような物質で構成されている。人間という肉体は非常に複雑な組織をもっているので、ある条件下では、その内部で、意識の活動にとって肉体よりはるかに便利で敏感な器官を生みだす新しい独立した有機体が育ちうるのだ。」 この4つの体については、古来、多くの密儀体系がさまざまな定義を加えているが、 簡単に整理すると次のようになる。 ◆ 第1の体 現世的、肉欲的肉体 肉体 (身体) ◆ 第2の体 自然体 アストラル体 (感情、欲求) ◆ 第3の体 霊的体 メンタル体 (知性) ◆ 第4の体 神的体 原因体 (私、意識、意志) 第1の体は死とともに塵に帰す体であり、第2の体は内外ともに好ましい条件が存在する場合に限って人為的に育成できる。このアストラル体は肉体の持つことができない機能を持ち、肉体の死後も生き残れるのだ。が、これは言葉の完全な意味での不死ではない。というのは、ある時間がたてばこれも死ぬからだ。 第3の体は高次の思考力の開発と関達しており、〈創造の光〉の体系でいえば、太陽の材質からできているため、アストラル体の死後も存在できる。 そして、第4の体は人間の全センターが統一的な調和と意志を持って機能したとき発達するもので、〈創造の光〉のシステムの中では銀河系の材質からできている。ということは、この太陽系内にはこれを破壊できるものは何もなく、第4の体を持つ人間は太陽系の領域内では不死なのである。 グルジェフは、この4種の体全部を発達させた人間=人間第7番のみが、本当の意味での〈人間〉だという。しかも、彼は弟子たちに、彼のいう“第4の道”をたどることによって、「あらゆる個別性を超越して、その真の人間に到達することができる」と教えたのだ。 ■覚醒の体験──覚醒するとどうなるか グルジェフによれば、人間が「覚醒」を体験することは、レベル7(人間第7番)の意識を顕現させることである。もちろん、最初からそのレベルに到達することは容易ではない。とりあえずレベル4(人間第4番)の意識を持つことが大事だ。この意識でさえ、今までの意識状態に比べたら驚くべき進化なのである。 ここでグルジェフの熱心な弟子だったJ・G・ベネットが、この覚醒状態に入ったときの様子を書いているので紹介しよう。 「……まわりの樹木は、どれも大変個性的だったので、林の中をどこまで歩いていっても、この驚異の念を感じ続けるにちがいないと思った。次に『恐怖』という考えが頭に浮かんだ。すると、たちまち恐れで体が震えだした。正体不明の恐ろしいものが、四方から私を脅かしていた。 『喜び』を思い浮かべると、胸が破裂するほど嬉しくなった。『愛』という言葉が浮かんできた。えもいわれぬ優しさと思いやりで、胸がいっぱいになり、それまでの自分は、真実の愛を持つ深さと幅を全く知らなかったのだ、と思わずにはいられなかった。愛はどこにでもあり、どんなものの中にもあるのであった……」 これが典型的な覚醒の断片的体験なのである。知覚が非常に鋭敏になり、新鮮な感動に包み込まれるのである。ここで、覚醒するといったいどのような恩恵があるのかまとめてみよう。 ●運命の干渉から逃れられる。したがって、覚醒した人には、占いの予言は必ずしも当たらな い。自分の意志のまま、自由な生き方ができる。 ●意識が拡大し、通常では感知しえない宇宙的真理を把握することができる。 ●悲嘆に変わることのない絶対の幸福と自由が顕現する。 このように、覚醒することによって人間は“真実の生き方”をすることができるのである。 グルジェフの錬金術──グルジェフワークの覚醒理論 ■グルジェフの錬金術 グルジェフはヘルメス思想を継承した錬金術師であったといえる。しかも、現代に多い“思想の錬金術師”ではなく“実践の錬金術師”である。 グルジェフの高弟ウスペンスキーは、最初にグルジェフに会ったときのこととして、次のように書いている。 「グルジェフはモスクワでやっていることを話したが、私には完全に理解できなかった。彼の仕事は主に心理学的な性質のものだったが、その中で化学が大きな役割を果たしていることが彼の話から察せられた。当然のことながら、最初に彼の話を聞いたときは、その言葉を文字通りに受け取ったのである。」 だが、グルジェフは次第にウスペンスキーにその化学の真の意味を明らかにしていく。 「化学を例にとろう。通常の化学は物質をその宇宙的特性を考慮せずに研究している。しかし、通常の化学のほかに、宇宙的特性を考慮しつつ物質を研究している特殊な化学──お望みなら錬金術と呼んでも結構だが──が存在している。」 そしてウスペンスキーによると、ローマ時代のグルジェフは、モスクワの本拠でその特殊な化学=錬金術の実験・研究に、かなりの資金を注ぎ込んでいたようなのである。 グルジェフはいう。 「人体の各機能に特有な物質があり、一つ一つの機能は強められもすれば弱められもし、また覚醒させておくこともできれば眠らせることもできる。しかしそうするには、人体の機構と特殊な化学に関する多大な知識が必要だ。 このような方法を用いているスクールでは、実験は本当に必要なときだけ、全ての結果を予見でき、また望ましくない結果をも処理できる経験豊かで有能な人の指導のもとでのみ行なわれるのだ。」 この言葉からも分かるように、グルジェフのいう特殊な化学=錬金術は、一般的にいわれる世俗的な黄金を求めた錬金術ではない。グルジェフの錬金術は、主にヨーガとイスラムのスーフィズムから編み出された“精神と肉体の錬金術”だったのである。 ■普通人の諸センターは未開発の状態にある グルジェフは普通の人々を「条件づけによって反応するロボット」だとみなしていた。 彼はこう語っていた。 「人間は機械だ。彼の行動、言葉、思考、感情、信念、意見、習慣、これらは全ては外的な影響、外的な印象から生ずるのだ。人間は、自分自身では一つの考え、一つの行為すら生み出すことはできない。彼の言うこと、為すこと、考えること、感じること、これら全てはただ起こるのだ。人間は何一つ発見することも発明することもできない。全てはただ起こるのだ。 ……人は生まれ、生き、死に、家を建て、本を書くが、それは自分が望んでいるようにではなく、起こるにまかせているにすぎない。全ては起こるのだ。人は愛しも、憎しみも、欲しもしない。それらは全て起こるのだ。」 グルジェフにいわせれば、普通人は人体の5つの諸センターの動きそのものが非能率的であり、相互間の調和を失っている。諸センターに用いられるエネルギーはそれぞれ別のものなのだが、互いに他のセンターのエネルギーを併用し、盗用しあっている。それがあまりにも慢性化して、衰弱の原因になっている、というのだ。 人はまず、それを止める適切な策を講じて諸センターの高次の機能を維持し、更にそれを最大限に作動させ、隠れている高次の2つのセンター、「高次の感情センター」「高次の思考センター」と連結するようにしなければならない。グルジェフは諸センターについて、こうした考えをもっていたのである。 ■肉体からアストラル体への変成 グルジェフによれば、不死なる人間への道の第1段階はアストラル体の獲得にある。 そのアストラル体も“巨大な化学工場”である人間の体で産出される、というのだ。とはいえ、これは生の普通の状態では起こりえない。 グルジェフは語る。 「“上質のものを、粗悪なものから分けることを学べ”──ヘルメス・トリスメギストスの『エメラルド・タブレット』のこの原理は、人間工場の働きを指した言葉であり、もし人間が“上質なものを粗悪なものから分ける”ようになれば、まさにそのことによって、他のいかなる手段によっても成し遂げることのできない内的成長の可能性を自分自身で生みだしうるのだ。内的成長、あるいはアストラル体、メンタル体などの人間の内的体の成長は、肉体の成長と完全に相似した物質過程なのである。」 また、こうもいう。 「アストラル体は肉体と同一の素材、同一の物質から生まれ、ただその過程が違っているだけだということを理解しなければならない。肉体全体、その全細胞は、いうなれば物質【シ12】(人体中の食物変成の最終的産物)の放射物に浸透されている。そして、それが十分染みわたったとき、物質【シ12】は結晶化を始める。この物質の結晶化がアストラル体を形成するのだ。 この過程を錬金術では、〈変成〉または〈変質〉と呼んでいる。錬金術で〈粗悪なもの〉から〈上質のもの〉への変成とか、卑金属から貴金属への変成と呼んでいるのは、まさにこの肉体からアストラル体への変成のことなのである。」 ■「自己観察」──「緩衝器」を除去して自分自身を見つめる さて、ここから具体的にグルジェフワークの覚醒理論を紹介していきたいと思う。 覚醒するためには、感情&思考センターのエネルギーを、高次の感情&思考センターに連結させなければならない。高次のセンターはわれわれの手の届かない領域であるから、通常、われわれの持っている感情および思考のセンターを操作し、ボルテージを高めて高次のセンターにまで触手を伸ばす必要がある。 感情&思考センターのエネルギーを、高次の感情&思考センターに向ける作業が「自己観察」である。これは自分の内面の動きをじっと観察するワークだ。 つまり、われわれの意識は、すなわちエネルギーだということを知らなければならない。しかし、通常、意識は外部に向けられ、あるいは夢想や理想にばかり向けられて消費してしまっている。そのため、高次のセンターを着火させるほどのエネルギーが到達してこない。そこで、この自己観察をすることによって、意識のベクトルを高次のセンターに向けるのである。 ところが、このエネルギーの方向を弱めてしまう要因が内部に存在している。グルジェフはそれを「緩衝器(クンダバッファー)」と呼んだ。自動車には地面からの振動をやわらげるダンパーとかショック・アブソーバーと呼ばれる緩衝器がついている。人も心理的な緩衝器を持っており、それが自己観察を妨げる最大の原因となっている。 誰しも自分は、有能で魅力的であり、人気があって重要な存在であると思いこみたい。自分のありのままの姿が無能で、魅力のない、つまらない存在であると知ったなら、大きなショックを受けるだろう。普通はそれに耐えられない。そこで「緩衝器」を使ってそのショックをやわらげ、ありのままの自己から目をそらしてしまうのである。 たとえば、仕事で失敗したとする。これをありのままに認めるなら、自分は無能だということになり、ひどいショックを受ける。そこで緩衝器は次のようにいうのだ。 「失敗したのは上司の指導がまずかったからだ、部下がだらしなかったからだ、会社の経営方針に無理があったからだ、体調がすぐれなかったからだ、運が悪かったからだ……」 こうして、ありとあらゆる理屈をいって自分を正当化する。すると、ショックがやわらげられる。しかし、同時にありのままの自己の姿が観察できないために、意識のエネルギーが高次のセンターに向かわない。こうなると我々は眠ったままであり、覚醒する可能性がなくなってしまうのだ。これがグルジェフのいう「緩衝器(クンダバッファー)」の役割なのである。 しかし、もし人が緩衝器を取り去って自分の失敗を認め、あえてその苦しみを受けて自己のありのままの姿を見つめたなら、意識エネルギーは高次のセンターに向かいはじめ、ついには覚醒に至る。 自尊心、いわゆる「我」の強い人ほど緩衝器が強い。緩衝器がある以上、自己観察は不可能である。ただし、緩衝器のない状態は非常に苦しい。緩衝器を撤去すると同時に、我々は強い意志を獲得しなければならないのである。 グルジェフはいう。 「覚醒は、それを捜し求めている者、それを得るために長期間うまずたゆまず自己と闘い、自己修練をする準備のできている者にのみ可能なのだ。そのためには『緩衝器』を破壊すること、つまり矛盾の感覚と結びついている、あらゆる内的苦痛と直面すべく進んで歩み出る必要がある。」
by sigma8jp
| 2008-12-03 06:03
| グルジェフの覚醒プログラム
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