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![]() メスメルは、こうしたパラケルススの説とニュートンの万有引力説の綜合を求めて患者に接しているうちに、自分の中にある種の磁力が働いていると信じるに至る。これが「動物磁気」説である。 1774年、メスメルは痙攣の発作に苦しむ女性を治療していた。彼女の足に磁石を当てると、彼女の症状は沈静化した。 これは、宇宙的規模のものから発せられたものではなく、メスメル個人の人体の内の磁力作用によるもの、と彼は考えた。 すなわち、磁石は伝導体であり、それを用いたメスメル自身が治癒作用を引き起こす本体である。人体には磁石に類似した特性がある。ちょうど磁石にはS極とN極があるように、人体にも正反対の両極があり、それらが伝達しあい、流動が変換、消滅、増大したりするという。これこそが「動物磁気」であり、これは人間なら誰もが持っている。 こうした人体の磁気をコントロールし、患者の身体へと作用させることによって、病気の治療は可能となるというわけだ。 したがって、そのコントロール方法の技術を学べば、誰もが動物磁気による治療が可能になるという。 メスメルが患者の頬や胸を撫でたり、身体の上に手を這わせたりすると、患者は痙攣や麻痺を起こしたり、ため息を連発する。患者が抱く「健康願望」がメスメルと「治療意志」と結びついた時、こうした現象が発生する。これは、メスメルと患者の動物磁気の流体の流れによるものだという。 人間の健康は天体の動きに呼応する不可量の磁気流体の配置が正しいか否かによる。すなわち、天体の支配下にある臓器が、正しい動物磁気の流れに従って完璧に調和し機能している時が健康な状態である。この調和が崩れた時、人は病気になる。メスメルは動物磁気によって、この調和を取り戻そうとした。 磁石を当てて医者から発せられる動物磁気を作用させると、人は「激烈な発作」を引き起こす。これは病気に抵抗しようとする人体の防御反応だという。だからこそ、治療には、この「激烈な発作」が必要不可欠であるという。 動物磁気の援助なしで「激烈な発作」が起こるのなら、それで良い。しかし、発作を起こすほど、身体が頑強でないときに、この動物磁気を用いる。こうした発作を経て患者が再び幸福感、安息感を感じたとき、悪いものが排泄され、身体が浄化され、病気は治癒するという。 メスメルの治療は次第に大掛かりになる。 建物の壁から各部屋、家具調度品に至るまで、全てに流体が浸透し、磁化されなければならないと考えた。 患者達は、「動物磁気」を帯びて磁化されたカップで、磁化された水を飲んだ。様々な鏡があちこちに設置され、日光を複雑に反射させることにより、発作後の患者に必要な流体の干満を促した。 庭の池や木々も磁化された。動物磁気も導線を伝わるので、磁化された物品は鎖や鉄線、ロープで結ばれた。さらに磁化された楽器を用いて、楽団が癒しの音楽を奏で、患者へと磁気を注ぎ込んだ。 患者達は磁化された水に足をひたし、治療を受けた。彼は「集団治療」の装置すら作った。 これは高さ2フィートのまるい木桶で、中は鉄屑で満たされ、磁化された水を入れた瓶が何列も車輪上に桶の中心からふちまで並んでいた。桶の蓋からは鉄の棒が突き出され、患者達は桶の周囲に並び、その鉄棒をつかんで患部にあてがった。そして患者同士が指をつかみあい、さらに1本のロープが患者達を数珠繋ぎにし、磁気を循環させた。 彼の療法は明らかに暗示による催眠効果である。だが、メスメルは、これを「動物磁気」の理論で全てを説明しようとした。ただ、彼は転換ヒステリーを観察し、「激烈な発作」がカタルシスにも通じることから、しばしばフロイトの先駆とも言われる。彼の著書の中には、ユングの集合的無意識にも通じる所がある、というのは、うがちすぎであろうか? フランツ・アントン・メスメルは1734年、シュヴァーベンのイツナングに生まれた。 神学と医学を学び、ウイーン大学で、1766年に「人体疾患に及ぼす惑星の影響について」という、ニュートンの万有引力理論と医学占星術が混合した論文を書き、医学博士号を取得した。 彼はウイーンで開業医となる。彼は人のいい、親切な医者だった。 裕福な患者には支払いを催促せず、貧しい患者は無料で診察した。そのため、経済状態は不安定になった。そこへもって、学問的研究にも熱中したので、蓄えも底をつき貧しくなる。しかし、1768年に裕福な未亡人と結婚することにより、この危機を脱した。 当時、宮廷占星術師のヘル博士が、磁石を用いた治療を行っていたが、メスメルはこれにヒントを得て、ヘル博士より提供された磁石を用いて実験し、1774年に先に書いた通りの「動物磁気」を発見する。 だが、ヘル博士は、これは動物磁気ではなく、あくまで磁石そのものの作用によるもの、と主張。そこでメスメルは磁石を使わず、素手でもって同じ作用が生じたことを見せて、これを論破した。 当時の新聞は、メスメルの実験をセンセーションに取り上げ、彼のもとには患者が殺到した。 宮殿の科学アカデミーは彼を認め、正式にアカデミー会員として迎え入れた。しかし、ウイーン大学の医学部は彼を黙殺、軽蔑した。 ![]() メスメルはウイーンを去り、パリに移った。 ここで彼は大成功する。患者達が大挙して彼の邸宅に押し寄せた。 ウイーンでの苦い経験から、メスメルは医学界のお偉方の歓心を買う必要があると考え、「動物磁気発見のいきさつ」という論文を書いて発表した。だが、学会の注目を集めるまでには至らなかった。 しかし、貴族や資産家、芸術化、医学者以外の学者といった有力者達が、メスメルの患者となって押し寄せた。ともあれ、彼はサロンの名士になることには成功した。しかし、ここでもメスメルは、パリの医者達の嫉妬と反感をかってしまう。 パリの科学アカデミーは、かなり傲慢な態度で、メスメルに実験に関する報告書の提出を求めた。メスメルはこれに応じて報告書を提出したが、アカデミーはそれを無視した。「出せと自分らで要求しておきながら、それを無視するとは」と激怒したメスメルは、フランスの医師の最高機関である王立医学協会に訴えた。だが、確認のための実験方法について意見が合わず、沙汰やみとなる。 次にメスメルはパリ大学医学部の承認を得ようとする。大学の有力者に友人が居たことから、メスメルは期待したのだが、冷淡な教授も多く、これもうまく行かなかった。メスメルは憤激し、パリから去った。彼の治療を受けていた貴族達は、慌てて彼を引き戻そうとし、宮廷に働きかける。年金下賜の提案がマリーアントワネットからなされるが、その金額が少ないとし、メスメルはこれを拒否した。 だが、すぐにメスメルはパリに戻る。彼は「宇宙調和協会」なる組織を設立。貴族や富豪達の熱烈な援助を受け、大成功する。だが、そろそろ彼の成功にも陰りが見えはじめる。一部の弟子達が、彼の理論に疑問を持ち始めた。さらに、患者の中にも症状の改善がみられないとして、彼を詐欺師と告発する者も出始めた。 1784年、宮廷はメスメルの調査委員会を任命した。優れた学者が多く含まれている。あのベンジャミン・フランクリン、化学者のラボアジェ、ギロチンの発明者ギヨタン博士などだ。彼らの実験方法は、「対象区」を用いた近代的で慎重な実験だった。 結論は、「人間の想像力によって引き起こされる現象であり、動物磁気の存在を証明するものではない」であった。さらに悪い偶然が重なる。あのタロットのエジプト起源説で有名なオカルティストで、メスメルの支持者だったクール・ド・ジェブランが、動物磁気の治療中に病死してしまう、という事件が起こる。メスメルの名声は急速に失墜した。 彼はパリから逃げるように去り、フランス、スイス、ドイツの各地を旅して1793年にウイーンに戻るも、そこからも追い出された。彼の著書は多くの者によって読まれ、支持されはしたが、肝腎のメスメルの存在は忘れ去られていた。結局、1815年、メースブルクの村で死んだ。村人の代表が数人参列しただけのわびしい葬式だったという。 だが、メスメルの「動物磁気」説の支持者は、彼の死後も活動を続けた。 ピュイゼキュール侯爵、ジョセフ・ドゥルーズ、ジュール・デュ・ポテ男爵、シャルル・ラフォンテーヌ、アンリ・デュルヴィルなどが有名である。彼らはメスメリズムをさらに発展させ、体系化させていった。 ニコラ・ベルガスは、フリーメーソンに動物磁気説を持ち込み、「調和のロッジ」なる結社を設立した。こうして彼の「動物磁気」説は、やがて心霊療法などにも取り込まれ、オカルティズム思想の一部を成して行くことになるのである。 ▲
by sigma8jp
| 2008-11-14 21:09
| 「メスメルの動物磁気」と催眠
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